解雇理由になり得るか?

 4月15日の「ロックアウト解雇」裁判での原告側の意見陳述は以下のとおりです。

意 見 陳 述 書
2013年4月15日
東京地方裁判所民事第36部 御中
原 告  松木 東彦
 本日意見陳述の時間をとって頂いたことに御礼を申し上げます。
今回提訴したことにより、会社の準備書面で、初めて詳細な解雇理由が明らかにされました。その理由を読んで、私は、こんな抽象的で些細な事が果たして解雇理由になるのかと、強く疑問に思いました。個々の事象の当時、私に対して懲戒処分にあたるなどとの説明は一切ありませんでした。
 解雇理由として、PBCの評価の低さが強調されています。しかし、PBCとは年初に(所属長と相談して)目標設定をして、中間PBCを経て、年末に評価を行う会社の評価制度です。このPBCの大きな問題点は相対評価ということです。個人が100%の業績を上げたとしても、比較対象の他の社員が110%の業績であれば、評価は低くなり、評価3や評価4となります。しかも、比較対象の母集団は知らされておらず、どこの誰と比較されているのかわからない、さらに母集団の1,2,2+,3,4の評価分布もわからないのです。次の問題点は、評価に所属長の恣意的な意見が入りやすい点です。
 私は入社以来、10人ほどの所属長を経験して来ましたが、PBC評価3をもらった際によく言われたのが、“君もがんばったが他の人の業績がよかったからね”といった言葉でした。このように、比較対象者もわからず、さらにその母集団の評価分布すらわからないような相対評価のもと、目標に対するおおまかな達成度すら公表できないような不透明なPBCでの低い評価が解雇理由になりえるでしょうか?
 解雇理由はいずれも些細なことの羅列ですが、そのひとつについて反論します。会社から提出された準備書面には、“月次報告書に業務と全く関係がない事項を記載する”とあります。
 会社では、年に1回、全社員に業務としてセキュリティ&インテグリティ研修を実施しています。インテグリティとは、コンプライアンス(法的遵守)は当然のこと、それ以上に清廉潔白な状態を目指すことらしいです。
 一方、所属している課では毎月ハイライトレポート(月次報告)を提出(データベース上に記入)するように言われています。数ヶ月前から、何でもよいので業務に関するコメントを一言でもよいので書くようにと所属長の藤澤さんから指示がありました。
 そこで、8月にセキュリティ&インテグリティ研修を受講し、かつ、これまでの自身が行ってきた改善活動で感じた疑問や、横浜北事業所のある部署で起きたという業者へのプール金の事件の説明・教育で感じた疑問も含めて、8月の月次報告に次のようなコメントを書きました。
「今月、セキュリティ&インテグリティ研修をwebで受講しました。
インテグリティは毎年受けるたびに疑問を感じます。
この会社は本当に精錬潔白を目指しているのでしょうか?社内調査機関は機能しているのでしょうか?
そんな中、元社長の大歳さんが盗撮で書類送検されました。
大歳childrenたちの経営は大丈夫でしょうか・・・。
会社は本当に精錬潔白を目指しているのでしょうか?」
   上記のコメントについて藤澤さんから削除するように指示があり、私は、大歳社長に関する部分のコメントは削除しました。他については、藤澤さんが削除するなら削除してもらって結構と回答しました。
果たしてこれが解雇理由になるのでしょうか。
 私を解雇した本当の理由はなんでしょうか?
 わかっているだけでも、わずか2週間ほどの間に10人にほぼ同じ文面で『解雇予告通知および解雇理由証明書』が渡されています。これはかなり不自然なことではないでしょうか。会社が人員整理をするために、何らかの理由で解雇したい人物を選択して解雇したとは考えられないでしょうか。
 私の場合、会社を正しい方向へ導こうとして行った、在庫管理の問題点や外注企業との発注トラブル等について社内調査機関への通報や意見具申が、会社にとって疎ましく、解雇の原因になったのではないかと考えています。
以上

平成24年(ワ)第29095号 地位確認等請求事件
原 告 鈴木裕治 外2名
被 告 日本アイ・ビー・エム(株)
意見陳述書
平成25年4月15日
東京地方裁判所民事第36部 合議A係 御中
原告ら訴訟代理人弁護士 細 永 貴 子
 2001年以降、2011年5月20日までに、就業規則53条2号(著しい能力不足等)を理由として解雇された従業員は存在しないこと
 被告は、退職強要事件訴訟の証人尋問期日において、2001年以降2011年5月20日までの間に、就業規53条2号に基づき解雇された従業員はいないことを認めた。
 すなわち、2008年のRAプログラム(1300人の退職を目標として行われた退職勧奨)実施時点で、被告の人事担当の取締役執行役員であった坪田國矢証人は、次のとおり証言した。
2008年のRAプログラム実施に際し、著しく業績が悪く、普通解雇相当であると判断された従業員の数は3,4名であり、そのうちRAプログラムのオファーを受けた者は退職した(甲1・35頁)
就業規則53条2号(著しい能力不足)に基づき解雇された従業員は、2001年以降、2011年5月20日の証人尋問当日まで、一人もいなかった(甲1・35~36頁)。
 この坪田証言を前提とすれば、今回、被告が合計15名(解雇時点において組合員10名、非組合員5名)もの従業員を同時期に就業規則53条2号に基づき解雇したことは、まさに異常というべき事態である。
 著しい能力不足という個別判断であるべき解雇理由により、2カ月間に15名も従業員が解雇されたこと自体の不自然性
 しかも、今回の解雇は、皆一律に「貴殿は業績が低い状態が続いており、その間、会社は様々な改善機会の提供やその他の支援を試みたにもかかわらず業績の改善がなされず、会社は、もはやこの状態を放っておくことができないと判断しました。」という、極めて抽象的な解雇理由をもってなされている。
 本来、能力不足か否か、それが解雇に相当するほど著しいものかどうかについては、従業員ごとに具体的に検討されるべき事情である。上記のような一律の抽象的な理由をもって、15名もの従業員が同時期に解雇されたこと自体、極めて不自然であり、組織的な人員削減の手段として普通解雇を利用したことは明らかである。
 本件解雇は、会社が従業員に「能力不足」のレッテルを貼り、解雇という手段を利用して会社から追い出すことを正当化しようとするものにほかならず、解雇権濫用法理に照らし、到底認められるものではない。
 原告らの求釈明申立書(2)に対する回答を求める
 原告らは、本日付で求釈明申立書(2)を提出した。
 上述のとおり、本件解雇は、被告の従前の人事施策に照らしても異常なものである。本件解雇の全体像を明らかにすることは、被告がいかなる理由で原告らを解雇したのかを理解する上で必要不可欠である。よって、原告らは被告に対し、本日付求釈明申立書(2)へ誠実に回答することを求める。
以上
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