8.22ロックアウト解雇裁判報告
新たに2人地裁提訴

 8月22日、日本IBMロックアウト裁判の第5回口頭弁論が東京地裁で行われました。今回代理人の弁護士より意見陳述を行いましたので下記のとおり全文掲載します。原告2人の意見陳述も行いました。
 今回から原告に鈴木すみれさんと酒本誠さんが加わり、この2人の第二次提訴が、第一次提訴の原告3人と併合されるかが今回のポイントでした。裁判長は「当面第二次提訴を第一次提訴と同一期日に行いながら、今後併合が適当か判断する」との方針を示しました。

  意見陳述書
  2013(平成25)年8月22日
  東京地方裁判所民事第36部 合議A係 御中
  上記原告ら訴訟代理人
  弁護士 穂積 剛
  1 「能力不足解雇」の乱発実態
 本件での被告による一連の能力不足を理由とした解雇では、昨年7月から10月にかけて15名(うち11名が組合員)に対し解雇予告がなされ,鈴木裕治らを原告とする一次訴訟が提起された。さらに本年5月から6月にかけて組合員3名が新たに解雇予告された。ここまでは前回期日において報告しておいたところである。
 ところが、被告はその後も解雇を乱発させ続けた。そのため、現在判明しているだけでさらに12名に対して解雇予告通知が実行されるに至っている。これら12名も,全員労働組合員である。
 鈴木すみれらを原告とする今回の二次訴訟は、このうち現実に解雇に至った2名が提訴したものである。その後、さらに5名の組合員が解雇されるに至っている。大阪で解雇された組合員はすでに大阪で提訴した。
 そうすると、ここまで判明している解雇予告対象者は合計で実に30名にも及ぶ。しかもそのうち26名、87%が労働組合員である。
2 「能力不足解雇」乱発の共通事情
 こうした「能力不足解雇」が昨年夏に突如として乱発され始めるまで、被告において「能力不足」を理由とする解雇を実施した前例がほとんど存在していなかったことは、被告自身が認めるところである。2008年に被告が実施した実に1500名に対する退職勧奨・退職強要計画であった「RAプログラム」に際しても、現実に解雇予告された労働者は一人もいなかった。
 それが突如として、これほどの大量解雇者をしかも一時に排出するに至ったのであるから、そこに何らかの被告の意思決定が存在していることは自明である。「能力不足解雇大量排出」の背景には、こうした被告の方針転換があり、この点を考慮したうえで解雇権濫用実態の検証がなされるべきである。
 ここで、先の原告酒本の意見陳述において、上司が「酒本さんがやられなきゃ他の人がやられる訳ですよ,当然」、「組織を維持しているためには影響の少ない人に辞めてもらいたい」と述べていたとの事実が極めて重要である。
 ここでは、原告酒本個人の能力不足が問題とされているのではない。そうではなく、人員削減が先に決まっていて、誰を辞めさせるのか選択された結果が、今回の一連の解雇だという厳然たる事実である。すなわち本件解雇の本質は、実は「能力不足」ですらなく、被告による人員削減に他ならない。この実態こそが、本件における審理の俎上に載せられる必要がある。そうでなければ、本件で本当は何が行われていたのかの実態が明らかとならない。
 このように本件では、一次訴訟と二次訴訟において基礎となる事情が明らかに共通している。というよりも、その点にこそ本件一連の大量解雇の本質がある。
3 「能力不足解雇」の争点の所在
 本件における一連の解雇の大きな特徴は、「解雇予告通知書及び解雇理由証明書」の文言が、ほとんど全ての解雇予告対象者について、ほとんど全て同一文言でなされているという点にある。
 被告は、本件での争点が「個々人の能力不足・業績不良であり、その具体的内容は原告ごとに異なっている」と主張しているが,本当にそうであるなら、どうして解雇理由証明書の文言が一字一句まで一致しているのか。本当に個々人について事情が違うというなら、「解雇理由証明書」の記載内容も当然に各人ごと違っているのが当たり前ではないか。自分たちでまったく同一文言の「解雇理由証明書」を出しておいて、片や個々人で事情が違うなどという主張がどうして平然とできるのか、皆目理解できない。
 実際には本件事案は、いずれも極めて似通っている。どの原告らにおいても、この何年かのPBC評価が「3」か「4」とされたこと(「解雇理由証明書」にいう「業績が低い状態が続いており」)、またPIPなどが実施されたが業績改善に至らなかった(「解雇理由証明書」にいう「改善機会の提供やその支援を試みたにもかかわらず業績の改善がなされず」)というのが被告の言う解雇の根拠である。
 このように、被告自身が述べる「解雇理由証明」がすべての原告らに共通しているのだから、争点においても本件は大きく共通していると言える。
すなわち、両事件は基礎となる事情が共通し、しかも争点も共通しているのであるから、当然に併合して審理されるのが妥当なのである。
4 「不当労働行為」に基づく解雇権濫用
 しかも本件においては、一次訴訟二次訴訟ともに、今後不当労働行為に基づく解雇権濫用及びそれに基づく慰謝料請求の主張を行っていく予定である。
 30名の解雇予告対象者のうち26名、実に9割近くが労働組合員という異常事態は、被告の不当労働行為意思を如実に示す明白な事実の一つである。このような不当労働行為に基づく解雇権濫用の主張の当否を検証するためには、今回突如として勃発した「能力不足解雇大量排出」の全体像を明らかにさせ、労働組合員に対して集中攻撃が行われている実態を白日の下にさらけ出させる必要がある。
 このような労働組合攻撃、不当労働行為に関する争点は、当然のことながら原告らすべてに共通する事情であり、個別事情では拾いきれない立証課題である。この点から考えても、本件においては両訴訟を併合させ審理を進めていくことが必要不可欠である。
5 訴訟の進行状況と進行予定
 さらに訴訟の進行という観点からも、両訴訟の併合には何ら問題はない。二次訴訟においては被告の主張書面がすでに提出されているが、被告主張の構成の仕方は一次訴訟とほとんど同一であり、個別性が認められない内容となっているからである。
 法律関係者にとって周知のとおり、解雇事件において解雇理由の主張立証責任はもちろん使用者側にある。したがって解雇の有効性を主張する使用者側は、率先して証拠資料を提出するなど積極的に解雇理由の主張立証を行うのが通常である。
 ところが、本件において被告はどういう訳か、証拠資料に基づく積極的な主張立証をほとんど行っていない。被告が主張立証を行わないのは被告の自由だから原告らが口出しする問題ではないが、原告らとしては被告の主張立証不十分を指弾することが主張内容の一つの柱となるため、個別原告に関する主張や証拠が広範囲に拡散する虞れがない。
 二次訴訟においても、被告主張を見る限り被告の側から積極的な主張立証を展開する意思はないようなので(書証の提出もない)、その意味でも本件の審理が長引くリスクはない。
 原告らとしては、一次訴訟について次回期日には立証計画を提出予定であり、来年1月からは併合された二次訴訟も含めて証人尋問を開始していくことで準備を進めている。したがって併合が審理の遅延を招くことはない。
6 結論
 以上に述べてきたとおり、一次訴訟と二次訴訟は併合したうえで審理を進めていくのが極めて正当であり妥当である。裁判所のご決断を賜りたく意見を陳述する。
 
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